トランプ米大統領と高市早苗首相は10月28日、東京で会談を行い、レアアース(希土類)やリチウムなどの重要鉱物の安定供給に向けた新たな協力枠組みの創設で合意した。両国は半年以内に閣僚級会合を開き、採掘・精錬・加工などの分野で共同投資を行うプロジェクトを選定し、中国に依存しない供給網の確立を目指す。
合意文書には、政府系金融機関の資金支援を含め、日米両国が「持続可能かつ透明性の高い供給体制の構築」を推進する方針が明記された。特に、製造コストを正しく反映した価格形成メカニズムの構築を通じて、中国による廉価販売への対抗も視野に入れている。
トランプ大統領は署名後の会見で「重要鉱物の供給を中国の政治的圧力に左右されない仕組みにする」と強調。高市首相も「脱・中国依存を日米の戦略的課題として進める」と述べた。
今回の枠組みは、米国とオーストラリアが10月20日に結んだ「重要鉱物供給協定」を基礎としたものだ。米豪合意では、両国が30億ドル(約4,500億円)規模の投資を実施し、米輸出入銀行が豪州資源企業7社に計22億ドルの融資を行う方針を発表している。
日本との協力では、ライナス・レアアースやイルカ・リソーシズなど豪州企業を含む三国連携体制も検討対象となる。採掘から精製、磁石製造までを一体で担う「統合型供給網」の構築が目標とされる。
日米両国は、G7やオーストラリアを含む同盟国と連携し、レアアースや重要鉱物の取引で「最低価格制度」を導入する可能性も検討している。これは、コストを下回る価格での販売による市場混乱を防ぐための措置で、将来的に国際的な価格安定メカニズムの中核となる見通しだ。
米国では過去にも中国依存からの脱却を目指し供給網の構築を進めたが、中国側の安値攻勢により採算が悪化し、プロジェクトの多くが頓挫した経緯がある。今回は日豪を含む多国間連携を軸に、長期的な価格安定策を重視している点が特徴だ。
米国は日本との合意に加え、マレーシアやタイとも同様の覚書(MOU)を締結。ASEAN諸国との協議を通じて、レアアース精製や備蓄体制の整備に向けた協力を進める。
一方、中国のレアアース輸出規制は世界のサプライチェーンに不安をもたらしており、米国と日本が構築を急ぐ新枠組みはその影響を緩和する狙いがある。専門家の間では「供給網の多角化は10年単位の取り組みになる」との見方が多く、資本・環境・技術の三要素をいかにバランスさせるかが課題とされている。
レアアースの採掘や精錬には高度な技術と長期間の投資が必要であり、日米の新たな枠組みはその「第一歩」と位置付けられる。米国はアジア歴訪中に締結した複数の合意を通じ、戦略鉱物の供給主導権を握ることを目指しているが、中国の圧倒的な加工能力を揺るがすには時間がかかる。 それでも、高市首相は「持続的な資源確保は安全保障の一環」として取り組みを進める考えを示し、トランプ政権も「資源同盟」を通じた経済安全保障戦略を強化する構えを見せている。
 
 